構造コラム第21回「振動解析への誘い」

構造設計は、数多くの「仮定」のもとに成り立っています。とりわけ地震の力と建物の挙動は、仮定の上に仮定が重なるようにして計算しています。低中層の建物は、過去の地震被害や多くの実験などの実績があり、現行の計算方法が「あながち間違いではない」ということは経験的に分かっているのです。

一方、超高層建築物(高さ60m超)は日本で建設されてから日が浅く、地震に対して建物がどう動くか、どのような被害が出るかということは、実際のところ「よくわかっていない」というのが実状です。そこで、より現実に近い状態で精密なシミュレーションを行うため、超高層建築物には振動解析(時刻歴応答解析)という計算が義務付けられています。(ちなみに振動解析は、ラケットや家電、自動車や航空機にも行われています。)

しかしながら、超高層の設計に携わったことのある構造設計者はほんのひと握りです。つまり大多数の構造設計者にとって、振動解析は「自分には手の届かないもの」「仕事には役立たないもの」なのです。実際私も学生のころは、構造設計者は振動解析の技術を持ち、ベテランともなれば皆一度は超高層の設計に携わったことがあるのだろうと思っていました。ですが現実はそうではなく、自ら望み、その世界へ飛び込まなければ決して出会うことのないものだと痛感しました。

ではこの先も、超高層に携わらない構造設計者は振動解析に対して無関心でいいのでしょうか。決してそんなことはありません。構造設計者は構造設計の専門家であり、知らなくていい事柄など一つとして無いのです。今の低中層の計算方法にも振動解析の考えが数多く取り入れられており、将来低中層の建物にも振動解析が義務化されるかもしれません。ですから、構造設計者はもとより、意匠・設備設計者や一般の方々にも、何をやっているかぐらいは知っておいていただけると幸いです。

ここでほんの少しだけ、振動解析の世界をご紹介しましょう。

「F=ma」
という式をご存知でしょうか。これは、「力(慣性力)は質量と加速度の積」というニュートンの第2法則を示した式です。なんだか中学校か高校の物理で習った記憶があります。

低中層建物の構造設計はこの法則に基づいて、地震によって建物にどれだけの加速度aがはたらくかを想定し、どれだけの力Fがかかるかを計算します。電車や車に乗っているとき、急激な加速や減速があると、誰かに押されたような感覚になります。地震が起こった時に、建物にもこれと同じ現象が起こっているのです。

私達にとって一番身近な加速度といえば、重力加速度ですね。これは地球上であれば変わることはありません。地震によって建物にどれだけの力がかかるかは、この重力加速度を基準に考えます。建物にかかる加速度をa、重力加速度をgとすると、建物の自重に対してa/gという割合で力がかかると想定し、このa/gについて震度4程度では0.2や0.3、震度6強程度では1.0を基本としています。そしてこのa/gを震度と呼びます。

この計算方法は、地震で左右どちらか一方から押されたときに、「押された直後のある瞬間」を抜き取って考えているのです。これは低中層の構造計算で最も一般的に用いられ、「静的解析」といいます。ある瞬間なので揺れることはなく、「静か」なのです。

次にこの「F=ma」を少し変化させましょう。

「F-ma=0」
ただ移項させただけのようにみえます。もちろん数学的にはそうなのですが、工学的には重要な意味を持ちます。

地震で押された後のことを考えてみましょう。柱や梁は押されて変形した後、元に戻ろうとします。この力を「復元力」といいます。地震で揺れる度に、建物には慣性力と復元力がかかり、上の式はこの二つの力が動きながら常に釣り合っていることを意味しています。これは振動解析の考え方の基礎となるものであり、これらの計算を総称して「動的解析」といいます。動的解析には時間の概念が加わるので、静的解析より複雑になってしまいます。

この移項した式を「d’Alembert(ダランベール)の原理」といいます。

実際の振動解析では、これらに空気抵抗や摩擦による揺れの減衰を考慮します。復元力も一定とは限りません。そして時々刻々と変化する地面からの加速度に対して、ある時間分ごとに計算を行います。

建物を解析するとき、床の位置にその階の質量を集めた点をつくり、計算が簡単になるように建物を簡略化するようにします。この質量を集めた点を「質点(しってん)」といい、このようなモデルを通称「串団子モデル」と呼びます。見ての通りおだんごのようですね。

解析ではこの質点ひとつひとつについて、どのような力がかかり、どのように動くかを解析します。
さらに建物はこの質点の数だけ揺れのパターンがあり、それらをひとつずつ解析しなければなりません。
20階建てなら20パターン、30階建てなら30パターンあり、それぞれのパターンに対して、全ての質点を解析します。

これをある時間分ごとに計算していくわけですが、一般的に建物の振動解析では、0.01秒や0.001秒ごとに行うことが一般的です。例えば3分間(180秒)建物の揺れを0.001秒ごとに確認したければ、180/0.001=180000回この計算を繰り返すことになります。

非常に大雑把な説明でしたが、振動解析のイメージを掴んでいただけたでしょうか。これだけ膨大な計算を人間が手計算でやろうとすると、一生かかってもできないでしょう。振動解析はコンピュータが発展したからこそ確立した計算方法であり、これからの構造設計には欠かせない技術であることは明白です。そして、構造設計者はさらなる技術発展に寄与し、少しでも被害を軽減させて社会に貢献するという責務を負っているのです。

構造コラム第17回「ねじれ剛性」

四号建物を設計するとき、仕様規定(建築基準法施行令36条~80条の3)のみを満たしていれば、安全であると判断していませんか。

もちろん満たすことは最低限のルールですが、キチンとした構造計算をした方がよい場合も存在します。

例えば、上記のような木造の建物【A】・【B】を考えてみます。

どちらも同様の基礎形式として、壁量の規定(施行令46条)など仕様規定を満足できます。

法律上はどちらも問題がないように思いますが、構造上は【B】が安全な建物であると判断できます。

ポイントは、壁位置にあります。

構造上では、両者の【ねじれ剛性】(ねじれに対するかたさ)に差があると言います。

【ねじれ剛性】は、【剛心(剛性の中心)から壁(地震力抵抗要素)までの距離】×【壁の剛性(かたさ)】に依存しています。

つまり、【A】と【B】においては、両者の壁量が変わらないため、できるだけ外周部に壁があるほど、ねじれにくい安全な建物であると判断できるのです。

ご覧の通り、【B】に比べ【A】の建物は中心部に壁が集中しており、ねじれ剛性が小さい建物と判断できます。

法律上は、仕様規定を満足していれば問題ありませんが、実際に構造解析をするとねじれの影響もあり、【外周部の柱が大きく変形する】ため注意を要します。

 

このように法律上は満足していても、実際に構造解析をすると注意が必要な場合が数多く存在します。

今回は、その一例として【ねじれ剛性】をご紹介しました。

 

構造コラム第16回「構造設計と各種規基準と地震」

建築基準法及び関連法令で建築物に求められる性能は、極めて稀に起こる地震時に建築物が崩壊しないという性能になります。
要は、大震災時に建物が崩れない様にし、避難ができる状態を確保しましょうと言うことです。

そして、建築基準法,関係法令はその性能を確保するための最低限を規定しています。
関係法令とは別に、構造設計の規準などが有ります。
こちらもその性能を確保するには、どの様な検討を行えば良いのかなどが書かれています。
※各規基準は、改正・改訂された時点で現実的な対策が取れる状況に対しての性能になります。

従って、各規基準を満たす(その建築物設計時点で考えられる最低限の性能)=極めて稀に起こる地震時に建物が崩れないであろう となります。
建物にどの程度の余力を持たせれば崩れない建物となるのかは、わかっていません。
※天災であり、建築地や施工状況,建物の使用状況,築年数など様々な要因もあるので、『崩れないであろう』という表現になってしまいます。
また、崩壊しない建物を作ろうとすると、コストやプランの面で現実的ではない場合もあると思われます。
(耐震診断・耐震改修についても同様)

お気づきかはと思いますが、崩壊しなかった建物が、その地震の前と同様に使用可能どうかについて一切ふれていません。
また、たとえ上家の被害が軽度で使用可能であっても、基礎が使用不可能な被害を受けてしまえば、結果として建物は使用不可となってしまいます。
(基礎の研究については上家ほど進んでいないようです)

構造設計とは、建物を如何に崩壊から遠ざけ、使用可能な建物に近づけるのかを設計するという事なのです。

構造コラム第13回「震度と構造計算」

「この建物はどのくらいの震度までもつの?」「震度7に耐えられるようにしてほしい!」
というお言葉をしばしば耳にします。

今回は、震度と構造計算の関係についてご紹介します。
現在気象庁の震度階は「0~4、5弱、5強、6弱、6強、7」の10階級となっています。
これはみなさん馴染みのある表現だと思います。
ちなみに、これまでに震度7を観測した地震は、気象庁が1949年に震度7の震度階級を設定してから5回あります(平成29年6月1日現在)

・「平成7年(1997年))兵庫県南部地震」
・「平成16年(2004年)新潟県中越地震」:新潟県川口町※(計測震度6.5) ※現:新潟県長岡市
・「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」:宮城県栗原市(計測震度6.6)
・「平成28年(2016年)熊本地震」の4月14日の地震(M6.5):熊本県益城町(計測震度6.6)
・「平成28年(2016年)熊本地震」の4月16日の地震(M7.3):熊本県益城町(計測震度6.7)、熊本県西原村(計測震度6.6)

一方構造計算では、この震度階をどの様に扱っているのでしょう。

実は建築基準法の構造計算のなかでは「震度」という考え方は存在しません。
厳密にいうと、地震によって建物が受ける加速度がどれくらいなのか、その加速度で建物に生じる力がどのくらいかということが定められています。これについては別の機会に詳しくお話ししましょう。

ですから建築基準法をクリアした建物がどの程度の地震に耐えるのかはなかなか特定できません。構造計算では地震の規模を「中地震時」と「大地震時」という2種類で表現します。
中地震時…建物の耐用年限中に2~3回発生する地震で、柱や梁はひび割れ程度の損傷しか受けない。
大地震時…建物の耐用年限中に1回発生するかもしれない地震で、柱などが折れたりして建物が倒壊せず、人命を守る。
という目標で設計を行います。

じゃあそれが震度とどういう関係なの?ということになりますね。
気象庁の震度階級で表現すると
中地震は「震度5弱程度」、大地震時は「震度6強程度」
を想定しているといわれています。

ちなみに、「震度7」というのは上限がありません。震度6強に近い「震度7」もあれば、大げさに言うと大地が割れて地上の建物が全て倒壊してしまうような大激震でも「震度7」なのです。つまり「震度7に耐える!!」というのは正しい表現ではありません。ですから「震度6強程度」としているのです。

ですが、構造計算の大地震を超えるような地震が実際起こっているのも事実です。過去の地震によって大きな被害を受けるたびに、法律の改正が行われてきましたが、現行の建築基準法も完璧ではありません。

過去の教訓を踏まえ、それぞれの土地や建物の特性を十分理解したうえで構造設計を行う必要があるのです。

出典
・気象庁HP
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/shindo/
・一般社団法人 日本建築構造技術者協会 (JSCA)
パンフレット「安心できる建物をつくるために」

構造コラム第12回「4号特例(平屋or2階建ての木造住宅)の上家の設計について」

4号特例とは、建築士が設計した建築物であれば、確認申請時に申請図書の一部省略ができる特例になります。
省略できる申請図書には、構造設計図書が入っています。
申請の際に構造設計図書の添付が省略可能なだけであって、構造規定の適合が不要になるわけではありません。
建築士の責任において構造規定に適合させる必要があります。

では、どのように安全性の確認を行うのかと言うと、主に下記①②にて行います。

①壁量計算,告示金物などを満足する。
存在壁量 > 必要壁量 を満足すること,告示金物 を満足すること など。

壁量や金物などの告示の規定あり。
必要な『梁断面や床構面など』の規定なし。

簡単に言い換えると“2階建て木造住宅には、一定以上の壁及び、その壁に見合った金物が必要ですよ”と言う内容です。

もっと極端に言い換えると、壁量計算の名前の通り『耐力壁と金物だけ考える』となります。

②許容応力度計算を満足する。
許容応力度設計規準を満足する。

必要な『柱梁断面や床構面、壁量や金物など』の設計規準あり。

簡単に言い換えると“①+バランスの良い壁配置+壁と壁はしっかりした床でつなぐなど建物全体で設計しますよ”と言う内容です。

『鉄骨造や鉄筋コンクリート造と設計のベースとなる考え方が同じ』となります。

実施設計段階で、『許容応力度計算を壁量計算と同じように考えられないのか?』というお言葉をいただくこともあります。
上でご案内しましたように、それぞれの計算方法で安全性を確保するための考え方が違いますので、出来かねております。

また、一般的に耐震等級や長期優良住宅の設計は、許容応力度計算にて行っております。
お施主様のご要望に合わせた設計手法のご依頼をお願いいたします。