弊社では、構造設計のお見積りのご依頼をいただいた際に、構造上気になる点があればお伝えしています。
一般的な木造在来軸組のプランについては簡易な壁量チェックを行い
現状のプランで通常の許容応力度設計が可能な壁量が確保されているか確認しています。
木造物件のお見積時に意匠事務所様にプランの調整をお願いすることが多い項目をご紹介します。
今回は耐力壁に関することです。
壁量不足
建物全体的に、筋かいや面材を設置できる壁が足りないことがあります。
許容応力度計算を行った場合、施行令46条の壁量計算で算出する壁量の概ね1.5倍程度の耐力壁が必要になると言われています。
『規基準の数値は「何でなの」を探る 第2巻』(建築技術)のQ.242によると、
壁量計算の前提としている建物重量は「実際の値よりも低く、重量の大きな建物の場合には適切でない場合もある」が、「建築基準法は最低基準ということもあり、このような算定となった」そうです。
プランが成り立たなくなるほど壁の追加をお願いしなければならないこともありますので、ある程度余裕を持って壁を確保しておいていただければと思います。
偏心
構造計算を行う場合も、基本的には偏心率の規定(≦0.3)を満足させる必要があります。
耐力壁位置の偏りが大きいと、バランスよく配置できるようにプランを調整していただくことがあります。
特に1Fが車庫のプランなどで注意が必要です。既定の長さの耐力壁が確保できない場合は門型フレーム等の設置でクリアできることもあります。
有効となる耐力壁
耐力壁長さは、筋かい→w≧900かつL/w≦3.5、
面材→w≧600かつL/w≦5.0が必要です。
900グリッドは階高3150 , 910グリッドは階高3185を超えると筋かいが1スパンでは使えなくなります。
桁落ち部分など、高さの違う耐力壁は、剛性が変わることを考慮して検討しなければならないことがあります。
最低でも階高の半分以上の高さが無いと、耐力壁として見込むことは難しくなります。
上下の壁線ずれ
2階以上で、持出部分やスパンの長い梁上の耐力壁は、梁のたわみを考慮して、告示で決められた壁倍率よりも耐力を低減させて検討することになります。
上下の壁や柱はできるだけ揃っている方が効果が高いです。
耐力壁線
耐力壁線間隔は、なるべく近い方が好ましく、最大でも8m以下で壁を配置していただく方が良いです。
それ以上壁線が長くなると、壁量は満足していても通常の床仕様では床が水平力を伝達し切れなくなり、
不可となることがあります。
以上は標準的な許容応力度設計を行う場合の注意点です。
木造の計画の参考にしていただければと思います。
お見積りご依頼の際に、プランについて気になることがございましたらご相談ください。
今回は、建物規模と設計ルートについてです。
まずは、建物規模と採用できる設計ルートの区分になります。
ルート1
強度型:建物を変形しにくくして、地震に対して耐える ≒ 満員電車の中で踏ん張るイメージ
木造
建物高さ≦13m,軒の高さ≦9m
S造
建物高さ≦13m,軒の高さ≦9m,
+柱スパン≦6m,階数≦3,延べ面積≦500㎡ → ルート1ー1
+柱スパン≦12m,階数≦2,面積≦500㎡,平面的バランスが良い(偏心率≦0.15) → ルート1ー2
+柱スパン≦12m,階数≦1,面積≦3000㎡,平面的バランスが良い(偏心率≦0.15) → ルート1ー2
RC造(
1)
建物高さ≦20m,規定量の耐震壁(2)がある
ルート2
S造
建物高さ≦31m,塔状比≦4,平面・立面的バランスが良い(偏心率≦0.15・剛性率≧0.6)
RC造(1) 建物高さ≦20m,塔状比≦4,平面・立面的バランスが良い(偏心率≦0.15・剛性率≧0.6) 規定量の耐震壁(2)がある(耐震壁の量により、ルート2-1とルート2-2の2つがあります)
ルート3(保有水平耐力計算)
靱性型:建物の変形能力を大きくして地震力を受け流す ≒ 満員電車の中で周囲と一緒に揺られるイメージ
S造・RC造(*1)
建物高さ≦60m
*1:RC造について
柱梁でフレームを組むラーメン架構について記載しています。
*2:規定量の耐震壁について
採用する設計ルートにより必要となる耐震壁の規定量は違います。
耐震壁の必要壁量は、多いほうから順に ルート1>ルート2-1>ルート2-2 となります。
各材料の特徴や想定される建物用途を勘案して、採用できる設計ルートが設定されています。
その設計ルートにより設計期間や躯体数量、確認取得までの期間も変わってきます。
また、建物規模ではルート1が採用できる場合でも
プラン等によっては上位の設計方法であるルート2やルート3を採用する場合もあります。
今回の建物規模と設計ルートは、これから計画する上での参考材料としていただけたら幸いです。
このたび九州熊本地方を中心に発生した地震により、被害に遭われた方々、また、東北地方での地震・津波等の災害により被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
被災地の一日も早い復旧をお祈り申し上げます。
今回から、「構造コラム」として、構造設計に関わる様々な話を、時々更新していきます。
第1回目は、構造設計において、地震はどのように扱われているのかということについてです。
建築基準法と震度
2016年熊本地震では、4月14日21時26分に震度7(以下前震)を観測し
2日後の16日1時25分にも震度7(以下本震)を観測しました。
それ以外にも、震度6強の地震が2回起きています。
(※気象庁発表:4月28日16時現在)
このように同じ場所で震度7が2回起きたケースは観測史上初めてです。
(過去に震度7が観測されたのは、「1995年兵庫県南部地震」「2004年新潟県中越地震」
「2011年東北地方太平洋沖地震」と今回の熊本地震の計5回です。)
建築基準法における、稀に発生する地震(中地震)は震度5弱程度、極めて稀に発生する地震(大地震)は震度6強程度とされています。
ちなみに、震度7には上限がなく、過去に経験したことがないような大きな揺れの場合も含みます。
建築基準法における建物の耐震性能のレベル
建築基準法上の規定では、中地震時には建物が損傷しない、大地震時には人命を守る(建物は倒壊しないが、構造体に損壊が発生することは有り得る)ように設計することとなっています。
これは、1つの建物が建っている間に、中地震は何度か起こり得るが極めて稀な大地震は1度遭遇するかどうかだろう、という前提によっています。
つまり、現行の構造設計では、基本的に繰り返しの強い揺れを想定していないのです。
前震ではなんとか持ちこたえた家屋も、筋かいなどの耐震要素は少なからず損傷してしまいます。
そこへさらに大きな揺れが加われば、構造計算で想定された強度は発揮できません。
下記のリンクから興味深い実験映像を見ることができます。
兵庫耐震工学研究センターにあるE-ディフェンスという振動台実験による加震実験映像です。
リンク先の下の方にある「【2】木造住宅 -在来軸組構法-(2005年11月)」の映像では、建築基準法が大幅に改正された1981年以前に建てられた建売住宅の実験が行われています。
2棟の同様な住宅を同時に加振し、補強無し住宅と補強有り住宅の大地震時の動きに違いが見られるか検証する実験です。
http://www.bosai.go.jp/hyogo/research/movie/movie.html
1回目の揺れでは補強無しの建物が倒壊しましたが、補強有りは倒壊していません。
しかし3日後に2回目の揺れを加えると、補強有りも倒壊してしまいます。
まさに今回の熊本の地震と同様のことが起きています。
大地震時に建物が建っていたとしても、例えば応急危険度判定士が「危険」の判定をした場合には、
安全が確認できるまで立ち入らないようにしていただきたいと思います。
今回の地震では、このように連続して大地震が起こり、多くの建物が倒壊する結果になってしまいました。
今回の地震災害を教訓として、今後また同じ被害を繰り返さないよう研究が進められるのではないかと思います。
被災した方々が1日も早く安心して暮らせるよう、心よりお祈り申し上げます。
また、今後の災害で犠牲になる人が1人でも少なくなるよう、構造設計士として日々精進してまいります。
参考:一般社団法人 日本建築構造技術者協会 (JSCA) パンフレット「安心できる建物をつくるために」
http://www.jsca.or.jp//
国立研究開発法人防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センター
http://www.bosai.go.jp/hyogo/index.html