構造コラム第26回「ピロティとピロティ形式」
2018/08/31構造設計
建築用語で「ピロティ」という言葉があります。日本建築学会編「建築学用語辞典」(岩波書店)によると、ピロティは「建築物の一階部分で、壁によって囲われず、柱だけの外部に開かれた空間」と記載されています。
前述の「柱だけの外部に開かれた空間」であるピロティは、意匠的な意味で書かれています。しなしながら、構造の観点での「ピロティ」は少々意味合いが異なります。
構造上のピロティは、ある階に地震の揺れに抵抗する壁(以下耐力壁)がある場合、その直下階には耐力壁が無く、柱だけで地震に抵抗する形式を指します。このような形式は、意匠上のピロティと区別するため、「ピロティ形式」や「ピロティ構造」と呼ばれます。また、ピロティ形式の柱を「ピロティ柱」や「下階壁抜け柱」といいます。
このピロティ形式の最も典型的な例をご紹介します。マンションなどでは、一般的に住戸の境界壁を耐力壁として設計します。しかし、1階はコンビニや駐車場にするため、耐力壁を抜いて広々とした空間となるよう計画します。このような建物はピロティ形式の建築物であり、1階を「ピロティ階」と呼びます。
ピロティ形式は構造上の弱点になってしまう場合が多く、過去の大きな地震被害でも、マンションの駐車場が潰れてしまった映像や写真をご覧になった方もいらっしゃると思います。もちろん構造設計ではピロティ階で崩壊しないように、ピロティ柱に鉄筋を多く入れ、地震に耐えられるように設計します。ですが、想定以上の地震が来た場合はどうしてもピロティ階に被害が集中してしまいます。
一方で、ピロティ(意匠上のピロティを含む)のおかげで被害が軽減したという事例が報告されています※1。東日本大震災では津波による被害が顕著でしたが、ピロティで外壁が無かったために、津波のエネルギーを受けなかったと分析されています。
身近な建物がピロティ形式かどうか確認しておくと、いざという時に有効な避難に役立ちそうですね。
参考文献
※1 田中 礼治、澁谷 陽:津波とピロティ構造(特集 東北地方太平洋沖地震5周年「震災復興と地震・津波対策技術」(その1)) 日本地震工学会誌 = Bulletin of JAEE / 日本地震工学会 編 (27) 2016-02p.36-41