構造コラム第24回「全体崩壊と層崩壊」
2018/08/31構造設計
現行の構造計算は、稀に発生する中程度の地震(震度4~5弱程度)に対して「柱や梁が損傷しないことを目標」とする一次設計、極めて稀に発生する最大級の地震(震度6強程度)に対して「柱や梁に損傷が生じても、倒壊・崩壊しないことを目標」とする二次設計に大別されます。今回はこの二次設計に着目してお話します。
前述のとおり、二次設計では柱や梁が部分的に壊れることを許容しますが、倒壊・崩壊しないようにと定められています。柱や梁が壊れても、建物全体が倒壊・崩壊しないとは一体どのような状態なのでしょう。
建物全体の壊れ方には、大きく分けると2通りあります。梁が先行して壊れる「全体崩壊」と、柱が先行して壊れる「層崩壊」です。
全体崩壊は梁が壊れて変形がどんどん進み、地震のエネルギーを「ひずみエネルギー」に変換して地震に耐えようとする設計です。一方層崩壊は、梁よりも柱が先に壊れてしまいます。この状態では壊れた柱は上からの荷重に耐えきれずに潰れてしまいます。図だと2階にいる人はまず助からないでしょう。
設計ではなるべく層崩壊を避け、全体崩壊となるようにしますが、層崩壊となってしまう場合でも、柱が壊れた時点で想定される地震に耐えていれば問題ありません。
しかしながら実際に地震が起きた場合、設計で想定した壊れ方にならないことがよくあります。特にこの層崩壊になりやすい建物があります。1階に駐車場のあるマンションです。マンションの住戸部分は地震に抵抗する壁がたくさんありますが、1階の駐車場は壁がない場合がほとんどです。このような形状では1階の柱が先行して壊れてしまうことがあります。
もちろん設計では全体崩壊とする、あるいは層崩壊が起こる前に地震に耐える設計としていますが、実際はそううまくはいきません。
地震被害などで、1階の駐車場が潰れて車がぺしゃんこになっている写真を見たことがある人もおられると思います。あれはまさに1階で層崩壊を起こしてしまったのです。
このように、「この建物はどこが弱点でどう壊れるか」を考えながら建物を眺めてみると、建物への見方が少し変わるかもしれませんね。