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構造コラム第34回「構造計算の地域格差」

2019/03/18構造設計

構造計算のなかで、建物にかかる地震の力を算定する際に「地域係数」という数字を使います。これは、日本全国で一般的に地震が起こりやすいとされる地域を1.0として、過去の地震被害などをふまえて0.9、0.8、0.7まで「地震の力を低減しても良い」とした数字で、国土交通省の告示で定められています。

 

 

1950年(昭和25年)に建築基準法が制定されたときは、この地域係数はなく、全国同じ地震の力を想定して構造計算が行われていました。その後1952年(昭和27年)に当時の建設省が告示を制定して地域係数が定められました。この制定の基になったのが、地震学者の河角広博士のハザードマップ(河角マップ)でした。このマップは、日本の有史以来過去にどの程度の地震がどれくらいの頻度で発生し、今後も同程度の地震が発生するであろうと想定して、日本全国に細かく加速度をプロットしたものです。この河角マップから都道府県ごとに1.0から0.8までの数値が割り当てられました。

 

2016年4月に発生した熊本地震に関して、被害のあった地域では地域係数を0.9または0.8と定めています。つまり熊本は、全国的にみて過去の地震の被害が少なく、これからも大きな地震被害は起こりにくいであろうと想定されていました。これは、地域係数が人間の有史から想定されたものであり、人間が経験していないもっと昔のことなど考慮されていないからです。このことからも、人間が経験した範囲で定められたこの数字について、本当に必要なものなのか?と疑問が残ってしまいます。しかしながら、被害を受けた多くの建物が2階建ての木造で、これは地域係数を使った構造計算はしておらず、簡易な計算方法で建てられたものでした。ですから「地域係数を低減したから被害が大きくなったのだ。」とは必ずしも言い切れません。

 

沖縄県では地域係数が0.7と定められています。実は、沖縄県は本土の1.0と同じほどの地震を経験しています。もっと言うと、鹿児島県は大部分が0.8であり、奄美大島とその周辺諸島は1.0と定められています。0.8から南下して1.0となり、海を渡って0.7とはかなり不思議な値になっていますね。これは、沖縄県の地域係数が地震被害から決められたものではなく、歴史的な背景があるからです。地域係数が定められた1952年、沖縄はまだアメリカ領でした。そのため日本の法律が適用されず、1950年より前の基準法で設計されていました。そして1972年、沖縄がアメリカから返還され沖縄の地域係数を制定するとき、1.0にするとそれまで想定していた2倍の地震で計算しなければならなくなりました。それはさすがにやりすぎだろうということで0.7という数字に落ち着いたようです。

 

今この地域係数を、「もっと精密なものに改訂すべき」または「完全に撤廃すべき」という意見があり、議論を呼んでいます。これからも「想定外の地震」が起こることは大いに予想できますが、撤廃すれば低減によって設計された建物は「既存不適格」になってしまいます。この数字の扱いについては、設計者はこれからも付き合っていかねばならないのです。

 

※参考文献

大崎順彦:地震と建築、(岩波新書、1983年8月)

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