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構造コラム第38回「もしものときの安全率」

2020/05/15構造設計

構造計算をしていると、たびたび「安全率」という言葉が出てきます。今回は、知っているようで意外と知らない安全率についてご紹介します。

 

安全率の考え方は建築分野に限った話ではなく、工学全般はもとより化学や航空宇宙、原発など多岐に渡って適用されます。そもそも安全率とは、「構造物や材料の極限の強さと、安全に使用できる限度の許容応力との比」(前者/後者)(出典:デジタル大辞泉(小学館))という定義です。残念ながら、私にはこれを読んでも何のことかさっぱりわかりません。

 

1本のロープを思い浮かべて下さい。このロープは10の力で破断(ちぎれる)するものとします。一方、実際使用するときは安全性をふまえて、最大でも1の力までしかかからないような設計とします。この場合安全率は、「10/1=10」となります。このように、安全率とはその物が本来持つ強度に対して、どれだけの余裕をみた設計にするかを数値化したものです。

 

建築分野では、鋼とコンクリートが材料として良く使われます。建築で使う鋼の安全率は「長期荷重:1.5、短期荷重:1.0」とします。ここでは鋼の「極限の強さ」を「降伏強度」と決めています。鋼に力を加えると変形しますが、力が加わらないと元の形に戻ります。しかし、ある一定の力を超えると、力を加えるのをやめても変形が元に戻らない点があります。このときの強度を「降伏強度」といい、この性質を鋼が「降伏した」といいます。すなわち、鋼が降伏するときの強度を1としたとき、長期荷重(建物の自重など常にかかる荷重)に対して、2/3の力までしかかからないような設計をせよということになります。つまり短期荷重(地震や風の荷重)に対しては降伏強度ぎりぎりまでの力で設計してよいということになりますね。ちなみにコンクリートは「長期荷重:3.0、短期荷重:1.5」です。ということは鋼よりコンクリートの方が、より安全性を見込んでいるということになります。

 

建築以外での安全率はどれくらいの数字が設定されているのでしょう。エレベーターのかごを吊るすロープは、「安全率10以上」としています。人の命に直接かかわるので、これはかなり安全性が見込まれています。一方航空宇宙では、「安全率1.15~1.25」とかなり低く設定されています。これは安全のための材料や設備などが、経済性に大きく影響してしまうからです。その代わりに、整備に多くの時間をかけ、品質管理を徹底して行います。

材料や用途などによってさまざまな安全率。もしものときに、きっとその本質が発揮されるでしょう。

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