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構造コラム第40回「S」の世界~その1~

2020/07/31構造設計

 建築業界では、木造のことをW造、鉄筋コンクリート造のことをRC造、鉄骨造のことをS造と略します。

 Wはwoodで木の略。RCはReinforced Concreteで補強(強化)されたコンクリートという意味です。そしてSはSteel、つまり鋼です。鉄骨造でしたら、鉄=Iron・I造になるのかと思いますが、鉄ではなくSteel・鋼構造なのです。

 今回はそんな「S」の世界を少しだけ紹介します。

 鉄と鋼は先ほど述べたように明確に異なります。大きな違いは含まれている炭素の割合であり、それによって分類されています。炭素の割合が0%~0.008%を鉄、0.008%~2.0%を鋼、2.0~6.67%を鋳鉄と呼びます。鋼材の特性は含有する炭素量によって大きく左右され、炭素量が増えると強度・硬度が高くなりますが、靭性が低下して脆くなり溶接性も低下します。鋼の中でも炭素量によって、極軟鋼、軟鋼、半硬鋼、硬鋼、最硬鋼に分類されています。この中で「軟鋼」が建築や造船、橋梁、ボイラーで広く用いられています。また他にも、合金鋼、高張力鋼、耐候性鋼、溶接用鋼、快削鋼、耐火鋼、低降伏点鋼など、様々な種類の鋼材が用途別に分類されています。

 建築物の主要構造部に使用する材料は、大臣が定める指定建築材料でなければなりません。また、鋼材は日本産業規格(JIS)に適合した工業製品として、その性能が安定的に供給されるものでなければなりません。ここで、建築鋼材で最も多く使用される材質規格を3つ紹介します。これまで長年使用されてきたものは、一般構造用圧延鋼材(SS材,Steel Structure)と溶接構造用圧延鋼材(SM材, Steel Marine)です。SS材は広く用いられ、流通量も多く代表的な材料ですが、建築では主要部材(柱や大梁)に用いられることは基本的にありません。SM材はもともと船舶に用いるために溶接性を高めた鋼材です。建築でも重要な溶接部分に用いられることがあります。1994年に新たに建築構造用圧延鋼材(SN材,Steel New)が制定されました。SN材はさらにA種、B種、C種に細分されています。それぞれの分類内容は割愛しますが、特に建築の主要構造部ではB種が使用されます。地震国である日本では、鋼構造には十分な変形能力を確保して粘り強く抵抗できる構造とすることが、現在の耐震設計の基本とされています(構造コラム第11回参照)。また、ラーメン構造では柱と梁の接合部分で溶接が多用されており、この部分の健全性確保も最重要項目となっています。このようなことから、SN材B種では強度やリン・硫黄の成分上限値、炭素量や衝撃値などが厳密に規定されており、H形鋼の柱や大梁、片持ち梁ではSN材B種を用いることが一般的です。

 JIS規格品以外にも建築鋼材として使用される材料があり、それらは大臣の認定を得る必要があります。主要部分で溶接が採用され、部材が塑性化することが想定される場合は、SN材B種に要求される性能と同等以上の性能が要求されます。中低層のラーメン構造の柱には、冷間成形角形鋼管が多く使用されています。圧延コイルをロール成形または、厚鋼板をプレス機で角形に成形し、シーム(継ぎ目)を溶接するなどして造られます。この冷間成形角形鋼管は従来STKR材(Steel Tube Kozo Rectangular)が用いられてきましたが、代替品としてロール成形角形鋼管(BCR材,Box Column Roll)とプレス成形角形鋼管(BCP材,Box Column Press)が大臣の認定を受けています。これらは材質がSN材B種やC種に準拠しており、降伏点の上下限幅も厳密に規定されています。

(次回へ続く)

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